正直に言うと、最初はまったく乗り気じゃなかった。近所の自転車屋で「電動マウンテンバイク、試乗会ありますよ」と声をかけられたとき、「ああ、また電動ママチャリの山版みたいなやつね」と内心バカにしていたのだ。90年代、大学生だった私はクロモリフレームのMTBに乗り倒し、近所の里山を汗だくで這い回っていた。あの頃の自分に言ったら笑われるだろうな、50を目前にして電動の力を借りるなんて、と。
ところが今こうして、山梨のトレイルパークでe-MTBをレンタルし、生い茂る木々の中を走っている。目の前に立ちはだかる急勾配の坂。かつての私なら「押して登るしかないか」とため息をついた場所だ。ギアを軽くし、アシストモードを最大の「ターボ」に切り替える。ペダルにほんの少し体重を乗せただけで、唸るようなトルクが後輪に伝わり、自転車ごと体がぐいっと前へ押し出された。視界が一瞬で開け、尾根にたどり着く。心臓はバクバクだが、脚の筋肉はまだ悲鳴をあげていない。これが、2025年の電動マウンテンバイクのリアルだ。
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そもそも電動マウンテンバイクって何が違うのか
e-MTBとは、スポーツ走行向けに設計された電動アシスト自転車のことだ。街中で見かける電動ママチャリとは、根本的にキャラクターが異なる。最大の違いは「どのタイミングで、どれだけアシストするか」という制御の思想だ。ママチャリが平坦路や緩い坂でのんびり漕ぎ出しを助けるのに対し、e-MTBのモーターは、人が本気でトルクをかけた瞬間を見計らって、怒涛のパワーを上乗せしてくる。それが、オフロードの凶悪な勾配を攻略する鍵になる。
法律的な話を少しだけしておくと、日本で公道を走るにはきちんと型式認定を受けたモデルでなければならない。アシストは時速24kmで切れ、人の力との比率は最大1対2までと決まっている。海外には規制の緩いフルパワーモデルも存在するが、それを無認可のまま公道で走らせれば完全な違法行為だ。この原稿を読んでいる時点で「山でしか使わないし」と思うかもしれないが、自走でトレイルに向かうなら守るべきルールは守ってほしい。
実走で感じた、3つの決定的な変化
初めての試乗は神奈川の「トレイルアドベンチャー・よこはま」で体験した。ここは初心者から上級者まで楽しめるコースが整備されていて、レンタルバイクもプロテクターも一式借りられる。だから、手ぶらで行ってその日だけe-MTBライダーになれるのがありがたい。料金は2時間の施設利用が2500円、e-MTBレンタルが3500円からだ。合計6000円で、全身泥まみれの大人の遊び場に飛び込める。
1. 登りが完全に「苦行」から「快楽」へ変わった
昔を思い出してほしい。MTBで山に入るとき、一番きついのは登りだ。下りの爽快感のために、ひたすら耐える時間。それがe-MTBだと、登りすらゲームになる。どれだけ少ない体力で、どれだけ斜度を攻略できるか。モーターのアシスト音を聞きながら、根っこや岩を読み、最適なラインを選んでいく。着いた頂上で飲む水筒の水が、信じられないくらいうまい。
2. バイクの重さは走り出せば気にならない、ただし降りると現実を見る
最新のフルサスペンションe-MTBは、軽量カーボンモデルでも20kgを超える。試乗したアルミフレームのモデルはざっと24kg。駐車場から担いでトレイル入り口まで歩くだけで「これ、持ち上げるのしんどいな」と苦笑いした。しかし、ひとたび跨いで漕ぎ出せば、この重さがむしろ安定感に変わる。下りの直線でぶっ飛ばしたときのどっしりとした接地感は、軽量バイクでは味わえない安心感だ。ただ、転倒して自分でバイクを持ち上げる場面では、この重さが容赦なくのしかかる。そこだけは覚悟しておいたほうがいい。
3. 行動範囲が2倍、いや3倍くらいに広がった
山梨の市川公園MTBフィールドで試乗したときは、朝から夕方までほぼ走りっぱなしだった。途中でバッテリーが切れるんじゃないかとヒヤヒヤしたが、エコモードを中心に使い分ければ60〜80km程度は余裕で走り切れる。従来のMTBなら午前中で脚を売り切っていたようなコース量を、夕方まで楽しめる。これは純粋に「遊びの総量」が増えることを意味する。
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正直、ここがネックだった。使ってわかったデメリット
買ったあとで「こんなはずじゃなかった」とならないためにも、現時点でのe-MTBが抱える現実を書いておく。
まず、価格がとにかく高い。国産メーカーのエントリーモデルでも30万円台前半、海外メーカーのフルサスともなれば50万円から100万円を超える。この金額があれば、ロードバイクならハイエンドに手が届く。正直、コストパフォーマンスで語るものではないと思う。趣味にどれだけ予算を割けるか、だ。
次に、充電とバッテリーの劣化問題がある。週末しか乗らないならまだしも、毎日乗る人は充電の習慣化が必須だ。走行会の前夜に充電を忘れて、途中でアシストが切れたときの絶望感は筆舌に尽くしがたい。20kg超のただの重いMTBがそこに残されるだけだからだ。さらにリチウムイオンバッテリーは数年で性能が落ちる。交換費用は5万円から、高いものでは10万円以上する。
それから、駆動系の消耗が本当に早い。人力+モーターの強力なトルクがチェーンやスプロケットに負担をかけるため、通常のMTBより明らかに摩耗が激しい。私は試乗の範囲で済んだが、オーナーになった友人に話を聞くと「チェーンは1000km毎、スプロケは2000km毎に交換してる」という。メンテナンス費用も頭に入れておくべきだ。
自分に合う一台を選ぶための3つのチェックポイント
数多くの試乗会で乗り比べた経験から言うと、スペックシートの数字より「自分の体に合うか」が一番大事だ。
1. モーターの特性を理解する
モーターは各社で性格がまるで違う。あるメーカーは低いケイデンスからドッカンとトルクを出す。別のメーカーは高速回転域でスムーズに伸びていく。実際に乗って「自分の踏み方に合うか」を確認してほしい。スペックの最大トルク値だけで判断すると、後悔する。
2. ハードテイルかフルサスか
迷ったらフルサスペンションをおすすめする。確かにハードテイルは軽く、ペダリングの効率も良い。しかしe-MTBの場合、モーターが重量増と引き換えに登坂のパワーを供給してくれる。それなら、下りで絶大なアドバンテージがあるフルサスの方が、結果的に「楽しい時間」が長い。荒れた路面でのトラクションと疲労軽減は想像以上だ。
3. タイヤは29インチ一択か、と言うとそうでもない
流行りの29インチは確かに安定感があって、障害物を乗り越えやすい。しかし私のように身長が165cm前後の小柄なライダーだと、27.5インチの方が車体との一体感が得られることもある。フィッティングを甘く見てはいけない。
結局、e-MTBは誰にすすめるか
ひとことで言えば「諦めかけていた大人」にこそ刺さる乗り物だと思う。昔は山遊びをしていたけど体力が落ちて足が遠のいた人。ロードバイクでは車道の走行が怖いと感じる人。週末だけでもデジタルデトックスして自然に浸かりたい人。そういう人たちにとって、e-MTBは自分を再び外へ連れ出してくれる最強のパートナーになる。
一方で、純粋に脚力を鍛えたい競技志向の人には向かない。あくまでモーターは「アシスト」であり、主役は自分の脚だ。だがいかにトレーニングを積んでも得られない絶対的なパワーで登坂をねじ伏せる快感は、スポーツとしての別次元の面白さがある。それを是とするか非とするかは、その人の価値観次第だろう。
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後悔しないための最終アドバイス
どうしても「買う前に一度、レンタルで本格的なトレイルを走ってほしい」と言いたい。試乗会は全国各地で毎月のように開催されている。最近だと大手メーカーが全国ツアーを組んで、最新モデルを惜しげもなく貸し出してくれるイベントが増えた。まずは半日でもいい、e-MTBでしか見られない山の景色を体験してほしい。
そしてもし購入を決意したら、絶対にケチってはいけないのがヘルメットとグローブだ。e-MTBは従来のMTBより突っ込みがちになる。スピードの出る下りでは、転倒のリスクも比例して大きくなる。頭と手はちゃんと守る。ニーパッドもできるなら着けたほうがいい。病院代よりずっと安いのだから。
最後に、私自身はあの日、山梨で見た夕焼けの美しさが忘れられず、今まさに50万円のフルサスe-MTBの購入資金をコツコツ貯めているところだ。30年前のクロモリMTB仲間に声をかけたら、意外にも「俺も乗ってみたい」と二つ返事が返ってきた。来年の春には、かつての仲間たちと再び山に入る計画を立てている。電動という技術が、失われかけていた遊びと仲間を取り戻してくれようとしている。ああ、早く欲しい。
